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気持ちを悟られたくないチアキは中々彼に話しかけることが出来ずにいた。しかし、それでも遠くから眺めたり、然り気無く近付こうとしたり、部屋の外から見つめたりという様なことは多かったし、サクはそれを良く知っていた。チアキがそれを他人に知られるのを嫌がることも。そしてチアキにとって幸いなことに、チアキが徳島に惚れているのに気付いていたのはサクだけだった。 チアキはストーカー基質なところがあった。好きになった相手の事は全て知り尽くさなければ気が済まない。 現に本人に訊かなければ知り得ない様な情報でなければ、チアキは徳島についてはなんだって知っていた。 先程のバイクを例にとれば、機種、色、メーカー、ナンバープレート、製造年月日、他のバイクとのエンジン音の差異まで把握している。 サクは、内心チアキのこの執着心が何処から来るのか考えて時折怖くなることもあったが、彼女がそれをおさえる理性や自制心も併せ持っているのを知っていたので、あえてその不安を口に出すことはしなかった。 サクがぼんやりしていると、扉がキイッと開いてチアキが黙って入ってきた。 案外早かった、とサクは拍子抜けした。 「居たんでしょ?」意地悪な笑みを浮かべながらそう問うてみる。 「誰が」チアキが目を背けながら答えた。 「誰って、解ってるでしょ?」サクはますます意地の悪い笑い方をしながら、 チアキの後頭部を見つめる。後ろを向いていても照れているのが解る。 「バカ、あたしトイレに行くって言ったじゃんか」 「ふうん、一緒にトイレ行ったんだ!」サクはげらげらと笑い出した。 「違うし、んな訳ないだろ、マセガキが!」チアキは顔を真っ赤にして、 ベッドの上の枕を投げた。それはそこで笑い転げている友人に当たる。 ひいひいと笑う彼女にチアキは苛立ちを覚えた。体が熱い。 人は羞恥を覚えると本当に体温が上がるのだ。 彼女は、お前なんか知らん、と友人に吐き捨てると、どっか、っと椅子に座ってしまった。 「冗談だってぇ。拗ねないでよ」サクはまだ口角を上げて息を荒げていた。 「ねぇ、いたんでしょ」やはり気になる。
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