迷猫

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「何もっ何も思い出せないなんてっ!家族や友達、楽しかった事や、大事だったであろぅ事まで、まるで解らないなんてっ!不安だらけで心が痛くてたまらないだろぅにっっっ!!」 「かっ、かっちゃん!?」 温情過ぎなムサイ男、近藤がモード移行すれば、流石の土方も綱を持てない。 「此処にいなさいっ君の面倒はおじちゃん達が見てあげるからっ!!」 「いやいやっ!!ナゼにそぅなるっ!?」 「記憶もなく、生活の全てを忘れたか弱き女子を、放り出せと言うのかっ!鬼だ!歳は!!正しくそれこそ鬼の所業と言うのではないかっっ!?」 「別にうちで面倒みなくても、奉行所に連れてきゃいぃじゃねぇか!!ただでさえ貧乏してんだぞっ!タダ飯食いはいらねぇし、今は良くても記憶が戻れば、やっぱり間者でしたって危険は回避すべきだろぅ!?」 二人の言い争いが続く中、静かに動いた者がいた。山南だった。彼女と山崎の前に腰をおろし、彼女の手をとる。ビクッと反応はしたが、優しい眼を向け微笑んだまま、語りかける。 「君はどぅしたい?此処にいたいかい?威張れる事ではないが、此処にいる沢山の男達は、悪い人だったらすぐに斬って殺してしまうんだ。つまりね、人が死ぬって事が凄く近い場所なんだよ。それが解ってても、此処にいたいと思うかい?」 幼子を諭す様に、ゆっくりと丁寧に紡がれる言葉だった。
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