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鼻を摘み『臭い臭い』と大袈裟に右手を顔の前で振って見せた。
「俺が自分の部屋でいつ吸おうが勝手だろうが。これだから餓鬼は‥‥」
重い腰を上げ裸足のまま捨てられたキセルを拾い、その先で落ちた小さな火種を潰す。
「‥‥何だか張り合い無くなっちゃいましたね。以前の土方さんなら怒鳴り散らして、追い掛け回っていたでしょうに。」
汚れた足で縁側に上がり擦れ違うだけの土方に、沖田が淋しげに漏らした。
「疲れてんだよ、そんな無駄な体力なんぞ使ってる場合じゃねんだ。」
机の前に腰を下ろし袖の袂にキセルを仕舞うと、片肘付いて沖田を見上げる。
「‥‥張りがねえのはお互い様だ、違うとは言わせねえぞ。」
「私は土方さんみたいにウジウジしてませんけど?」
「どの口が言ってんだろうな。しょっ中傷跡ばっか眺めてんのは、どこのどいつだよ?」
「煙草ばっかり吸ってる、ここのこいつじゃないですか?暇さえあれば阿呆面で惚けてね。」
「ああ言えばこう言う‥‥」
憎まれ口で沖田に勝てる訳も無く、
「そんだけ有り余ってんなら、お前が武田んトコまでひとっ走り行って来い。」
机に顔を突っ伏して、狗猫を追い払うように手を振った。
「それは副長命令ですか?」
「そうだ、但しお前は手ぇ出すな。」
「それは‥‥つまらないですね。私を伝令の為だけに使うなんて、高くつきますよ。」
「なーに吐かしてやがる。さっさと行け。」
「‥‥ハイハイ。」
大捕り物を目前にしているというのに、互いに覇気の無さを感じ取っていた。
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