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別れた後、今は懐かしい思い出を愛おしむ。
土方は左手親指にある傷跡を、唇にそっと触れさせた。
『もし私が裏切ったら殺して』
そう告げた幸華との約束は果たされず、今でも生死すら確認出来ていない。
幕府と攘夷志士、どちらからも狙われる立場と成り果てた哀れな女。
記憶など戻らず此処で共に暮らせていたならば‥‥と、甘い考えが過る。
山崎の元嫁が後を追って来たのが始まりだった。
あの時行かせるんじゃなかった。
他人の元嫁の揉め事や命なんか放っておけば良かった。
今更悔やんでも悔やみきれない、などと思う事自体が既に女々しいとわかってはいるが。
隠しているつもりの後悔は、同じ誓いをした沖田にバレバレだった。
しかしその沖田もまた言い知れぬ虚無感に襲われ、日々を過ごしているようにしか見えない。
側に居る事も叶わず、約束を守る事も叶わず‥‥
唯一心の安らぎは刃向かう敵を斬り裂く瞬間だけ。
いつになったら触れられねえ女を忘れられるんだ、俺達は。
「あーーーーーっ!」
ガシガシと頭を掻き、大の字にバタリと倒れた。
もしも幸華が、もうこの世に生きていないとしたら‥‥
せめて、来世では幸せであって欲しいと‥‥また巡り会いたいものだと願うしかなかった。
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