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そしてまた、伝令係として武田の元へ向かう沖田も、左手に添えた刀の鍔を印のついた親指でやんわりと幾度も撫ぜる。
後悔はしていない。
出逢いが必然なら別れも必然。
過去に戻れない事など充分承知している。
残されたのは叶わなかった約束だけだが、それは効力を失っていないと信じていたいのだ。
「…‥あの人がそう簡単に殺られますかねぇ…‥」
しぶとく男よりも根性のあった幸華を思い出しクスッと笑う。
そうこうしている内に四条上ルの小路付近に辿り着き、近場を巡回していた武田の隊を見つけた。
遠目から見ても厳つい集団だなぁと思いながらこっそりと後ろを付いて歩けば、最後尾の隊士がコソコソと町娘を品定めしている。
「あの娘いい尻してんなぁ。」
「見てみろあそこ、乳でっけえぞ。」
「どちらが好みなんですか?」
「そりゃあお前、でっぷりとした尻の方が締まりがいいに決まってんじゃねえか。」
「馬鹿言うなよ、乳がでけえ方がいいんだって。谷間で挟むとまた格別の快感があんだぜ。」
「へー、物知りですねぇ。参考にさせてもらいますよ。」
「参考って何だよ、まさか筆下ろしもしてねえとか言わねえよな?……っ!?」
「なら俺が教えてや……うはあっ!?」
下世話な大人の話しに相槌打って入り込み、振り向いた隊士達が驚く様を見て噴き出したいのを堪えた。
「お、沖田組長ーーっ!?」
「すみっ、すみませんっしたあ!」
あたふたと謝る声に、前を歩く者達も一斉に振り向き顔色を変える。
「沖田君、何用かね?」
先頭を歩く武田が少し眉をひそめて近づくと、沖田も左右に退いた隊士達の間へ歩を進めた。
「ご苦労様です、いえ何……副長から言伝を頼まれましてね。」
これから始まる惨劇を予見して沖田は残酷に微笑んだ。
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