舞桜

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返事はないまま、不確かな形は霞の様に崩れ、次々と変化してゆく。 『咲……君だけが…君だけがいてくれたら…それだけで良かったのに…』 「…栄太、郎…」 『幸華さん、最期の最期に…我儘を聞いて下さって有難う御座いました。…自由奔放過ぎる貴女でしたが、とても好きでしたよ。』 「沖田さん…だよね…?」 『てめえはホント、俺の言う事聞かねーよな。お転婆以上の暴力女だが…まぁしょうがねぇ、これが惚れた弱味ってヤツか。』 「…土方さん…」 朦朧とした中で駆け巡る、今は思い出の人々。 平助や左之助や山南、近藤率いる新撰組の隊士達もまた生前の笑顔のまま、幸華の名を呼んでいた。 …これが走馬灯というものか… 嬉しさと不安、後悔が入り交じる中、最後に現れたのは… 『…サチ…先に逝ってもうて、すまんかったな…』 「…ヤダ……烝……烝っ!!」 死に別れてからも、愛して止まない男。 幻想の姿だとわかっていても、胸が締め潰されそうに痛い。 咄嗟に幸華は、思念だけの形のない手を力の限り伸ばした。 「待ってえ!消えないでっ!消えないでよう!!逢いたかった!烝っ!凄く逢いたかったんだよーーっっ!!」 支離滅裂に叫び、闇雲に弄る意識の中の手は何者にも届く気配がない。 「何でまた置いて行くの!?私ももう死んじゃってるんだから、一緒に連れてってよーーっ!!ねえってばっ!もう一人にしないでぇぇぇーーーっっ!!!」 ここは夢か現か幻か……否。 現であろう筈もないと感じていたからこそ、恥も体裁も無くただただ悲痛に泣き喚く。 「愛してるって…!愛してるってあんなに言ってくれたじゃんか!私がどんな女でも永遠に側に居るって!!だったら二度と離さないでよっ!離れ離れはもう嫌だようっ!!」 心が…赤子の如く素直に泣き叫んでいた。
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