---疾風の優盗賊---

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「このまま行かせてくれねぇかなぁ?」 「貸しだけ作って逃げようって?」 「そうじゃない。それに巻き込んだのは俺だよ」 エルシアはいつもの調子で返す。 イルシェは突然、表情を消した。 …いや、無表情を作った。 「私があんたについて来たの」 「…だから連れてけって?」 「あんたが責任感じる必要はない。私はあの日に死んだの。だから、私を連れて行きなさいよっ!!」 イルシェは感情を消した顔で、エルシアを睨み付けた。 「…イルリアは、置いて来たのかい?」 エルシアは答えずに、質問を投げ掛ける。 それに対してイルシェは不快そうな顔を見せ、頷く。 「俺と来るなら、あいつとは一緒に行けないかも知れないぜ?」 「…私はあんたと行く」 「何かよく分かんない内に、好かれちまったもんだ」 「自惚れないで」 突っ込みを入れられエルシアは、困った様に微笑んだ。 ーーーーーー イルシェが飛び出した後、イルリアは部屋中に響き渡る程の声を挙げた。 「私、わ…俺はぁっ!!!!」 脳裏に蘇る、先程まで話をしていたのであろう少女の姿。 イルシェよりも少し幼く、子供らしい無邪気さを持っている。 「…シェナっ!俺、が、守ると…決めた、のに」 彼の言葉は途切れ途切れになる。 頬を伝い行く、幾つもの涙。 『大丈夫だよ、おにぃさま』 そう聞こえた気がしてイルリアは、涙を拭う事も忘れて微笑みを作る。 「シェナ…、俺はまた、守らなくてはならない物が出来た。君を捜す旅は、もう終わりにする。許して…くれるな?」 イルリアの目に映る少女の幻影が、優しく微笑み掛けた。 「俺は、私は守らなければならない。君と同じ、強がりで、弱くて、傷付きやすくて、きっとずっと、孤独だった女の子を。どうしても、君と重ねて見てしまう。だから…今度こそ、守る」 一見独り言の様な彼の言葉は彼が映し出した幻影に届き、少女は微笑みを見せながら、 『大丈夫。おにぃさま、うぅん、おにぃちゃんは何も悪くないの。シェナが、シェナが全部悪いの。辛い思いさせてごめんなさい。私に縛られないで』
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