出航

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何か期待するような目でガスターを見てくるエバートンを除けば、ジムを始め、士官はみな戦闘には消極的だった。 今回は探検航海が主目的であり、船にもようやく慣れてきたところのため、船の損傷や負傷者が出る事態はできるだけ避けたかった。 ましてや軍船の戦列艦が相手では、攻撃力が違う。 問題は、逃げる方向と、逃げ切れるかだった。 掌帆長のルーシーと航海士のガスターは、追い付かれない自信があった。 「風は横からですが、サブの帆を張り替えて、トップスルを足して、切り上がれば、振りきれます。」 「進路も問題ありません。誤差範囲内で修正可能です。風向きも暫くは変わらないでしょう。」 ルーシーとガスターにはみな一目置いている。 船長の無言の頷きで、その提案通りにいくことになった。 「きりあがるぞ。1、2班はサブ。3班はトップスルをやれ。」 「おおー。」 掌帆長のルーシーの号令で、みなが躍動する。 ブリスタ帝国船も懸命に追ってきたが、5時間後には引き離され、日没を前に、諦めたようだった。 「逃がしましたな。ライバ船長。」 隣に立つ、副官の毛むくじゃらの大男に船長と呼ばれた男は、立派な黒髭を蓄え、軽く首を傾げて答えた。 「いい船だ。バランスがいい。肩慣らしをしたかったがな。」 「はい。封書によると3ヶ月後だそうです。一度整備をしたいところですな。」 「よし、南に、ぺリアに戻るぞ。」 このブリスタ帝国船はノース号で、ガダル島での戦いの後、逃げるエギル王国船を追撃した帰りだった。 ぺリアはブリスタ帝国の北西の軍港で、前哨基地があった。 この時から3ヶ月後に向けて、暫く海の小競り合いが減ることとなる。 嵐の前の静けさだ。 少なくとも今回は、レディハープ号の狙い通りとなった。
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