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ソファーに座ってマグカップを握っていた真尋さんは、横目で私が出てきたのを見ると少しだけ微笑みながら立ち上がる。
真尋さんって、こんなに甘ったるい雰囲気を持ってたっけ。
「御免、うち乾燥機無くてさ。昨日のまだ乾いてないんだよね」
そういえば、昨日は雨が途中から降り始めたんだった。
それで雨に濡れて…、……あ。
「真智(マサト)先輩…」
濡れたのも、此処に居るのも、私が真智先輩の家に行ったからだ。
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―――――――…
あ…雨降りそうだなぁ、傘持って来てないのに。
溜め息を吐き出しそうになりながら、私は合鍵を鍵穴に差し込んだ。
なかなか親が家に帰って来ることはないという真智先輩が私にくれた合鍵は、一軒家のもの。
数時間前のメールで勝手に入って来いって言われたし、先輩が好きなコーヒーのパックも買ってきた。
リボンが付いた黒のパンプスを隅に揃えて、そのまま階段を上っているとギシリ、と音がして私は思わず眉根を寄せてしまう。
もしかして先輩、居る…?
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