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「まずいな、マクロファージ隊が押されてやがる」
アルファの声に、オメガは最前線に目をやる。
マクロファージ兵は、モンスターやビールスを食うことを得意とするが、共食いや民を食らうことはしない。
兵や民が乗っ取られているか否かの判断もつかない。たとえもし乗っ取られていると分かっても、その兵や民を食うことが出来ないため、宿主から外に飛び出たビールスを食らうしかないのだ。
だが、宿主から出てくるのを待っている間にも、ビールスは恐ろしい速さで増えていく。
「まずい、このままいくと、民にまで被害が及んじまう」
少し焦った、一瞬の隙を狙われた。
銃撃をくぐり抜け、液体の塊がオメガに襲い掛かった。
「オメガ!」
アルファの叫びにも似た声が響く。
「が……ぁっ!」
目も鼻も口も何もない、不気味な液体の塊は、オメガの耳や鼻や口から、内部に侵入しようとする。
――てめぇらに、タダで体をくれてやるかよ!
ぐぐっと力を込め、口を固く固く閉じる。口から侵入しようとする液体の塊が、それ以上進めずにビチビチと釣り上げられた魚のように暴れる。
――ちっ、ちったぁ生物らしいところがあンじゃねぇか。
心の中で悪態づきながら、しかしビールスを噛み上げる力は緩めない。
オメガは、そのままアルファを見遣った。
「マクロファージ兵! マクロファージ兵!」
オメガの視線に気付いたアルファが、狂ったように叫ぶ。
数名のマクロファージ兵が、戦火の中を駆けてやって来る。
「オメガを――こいつを司令官の元へ! リン=パのヘルパー司令官の所へ! 早く! 手遅れになる前に!」
マクロファージ兵は、オメガがビールスを噛んで捕らえていることを確認すると、角の間にオメガを横たわらせ、駆け出した。
オメガを乗せたマクロファージ兵を中心に、それを守る陣形を組みながら、マクロファージ兵達は駆ける、駆ける。
行く先は、誰に教えられなくても分かっている。
要塞リン=パ。
難攻不落。一度たりとも破られたことのない砦を持つ。
そこが落ちる時は即ち、この国が終わる時。
神の終焉の時。
直属の精鋭兵に守られながらその要塞に座すは、司令官、ヘルパー。
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