餞別

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「まあ、今この場で名乗り出ろと言っても無理な話だな。だがな、防犯カメラの映像を観れば、すぐにわかるんだからな」 「え? 防犯カメラなんてあるんですか?」 社員の一人が訊いた。 「ああ。あそこに見えるドーム状のがそれだ。だが、防犯カメラの映像を観るには警備会社に連絡しなければならないし、そうなると警察沙汰は避けられん。できれば、そうしたくないのだ」 確かに、警察沙汰ともなれば信用に関わる。こんな超零細企業にとってはかなりの痛手となるはずだ。 それより、防犯カメラだと? もし、その話が本当だとすると、映像を調べられるのは非常にまずい。 何故ならば、防犯カメラの位置からすると、私の残業時の楽しみがそのまま映っているはずだからだ。 「皆の前で名乗り出るのが嫌だったら、後で私のところに来てもいい。もう一度言うが、今だったら依願退職……」 「申し訳ありません。私が盗りました」 社長の話を遮り、私は手を挙げた。 「く、黒岩くん……本当に君が?」 周りの社員がザワザワとざわめく中、私は答えた。 「すぐに返そうと思ったのですが、今更言い訳にしか聞こえませんね。今日中に私物をまとめておきます」 別にこんな会社未練はない。 辞める良いきっかけができたぐらいにしか思わなかったが、未練があるとすれば……。
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