10人が本棚に入れています
本棚に追加
「そう言ってくれて嬉しいけど、一期には一期らしくいて欲しいな。それに俺はそんなに完璧な人間でもない」
そんなことは知っている。
兄さんだって全部が全部完璧じゃない。
兄さんは片付けが苦手だし、
料理だって下手だ。
意外に涙脆いし、
絶叫マシンも苦手だ。
兄さんを慕う人間は、男も女も沢山いるけれど、
兄さんのこんなとこ知らないんだろうな、と思うと、
思わず笑みが溢れる。
兄さんは僕が“追い付きたい”と言ったことを、
兄さんのようになりたい
だと思ったようだけど、
本当は少し違う。
確かに僕は兄さんに憧れてるし、
兄さんは僕の人生の上で、
大きな目標であり道標だ。
だけどそれだけじゃない。
僕は…………
「ねぇ、兄さん。僕のいいとこってなに?」
「どうした、急に。一期のいいとこかぁ…、いっぱいあるけど、強いて言うなら、素直なとこかな」
「素直?」
優しく微笑んで、
僕の頭を撫でる兄さんに聞き返した。
「あぁ。凄いことなんだぞ?自分を偽らない純粋な心がないと、素直になんてなれない」
兄さんが誉めてくれたことが嬉しくて、顔が綻ぶ。
だけど兄さん。
僕はそんな純粋な子じゃないんだ。
僕は……、
自分を偽ってばかりだ。
最初のコメントを投稿しよう!