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舞台は学舎。
時は放課後。
主役は1人の少年。
「――ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」
少年は走る。全力を以てひたすらに、脱兎のごとく廊下を駆ける。
その兎を狩らんと、一人の少女が追い掛ける。洗練された走りは無駄がなく、逃げる兎を追い詰める。
「開けっ――!!」
少年は走りながら前方に向けて手をかざした。手を向けた先にあるのは、今は閉まっている窓があるだけ。
――その窓が、少年の言葉に応え、独りでに開いた。
「うっしゃあ!!」
勢いそのままに窓から飛び出し、重力に引かれて落ちていく。
ここは校舎の3階。落ちれば怪我を負うことは必至。そんなことは言うまでもなく誰でも分かる。
――少年は何もない『宙』を踏み、空中を跳んでいった。
「あばよ、とっつぁん!」
顔だけ振り向き、追い掛けていた少女に別れの言葉を告げる。
宙まで追い掛ける力を持たない少女は、忌々しげに睨み付けることしかできなかった。
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