覚悟

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覚悟

       ◎ 「おっ!ようやく出てきた出てきた。ほら、見てみろ。これがエンビスの結晶だ!」 古ぼけた遺跡の中、二人の探検家がいた。 子供みたいにテンションがあがりまくっている男。隣には五歳になろうかという少年が一人。少年は男、つまり父親が喜んでいる意味がよくわからなかった。 エンビス。人喰物科の植物で、近づいてきた人間を食らう、害乱種である。人間界には生息せず、外界、世界の外側にのみ生息する植物で猛毒と甘い香りが特徴。また、美しい花を咲かせる。そんな危険そうな植物エンビス。だが、エンビスの体液には猛毒だけではなく、あらゆる神経毒、それどころか神経障害を緩和する力がある。この体液はインユと呼ばれ、あらゆる病院での必需品の一つとなっている。しかし、これが簡単に確保できるものではなく、エンビスが死に絶えた後、この体液インユだけは地面に溶け込むことも蒸発することもなく、薄暗くひんやりとした岩場を求め自ら移動。そこで約三百年かけて高純度の物質、結晶へと姿を変える。 時間と、希少価値が高いため、一グラム四千万はくだらない。また、このエンビスの結晶はあらゆる事に用途でき、AIの本体である結晶型のコアに使われている。 「よくわからないという顔をしているね。これはエンビスの結晶といってね。人類を救うかもしれない鍵の一つなんだ」 「人類を救う鍵?」 「そうだよ。お前もいずれ世界へと旅立つ時がくるだろう。その時、この結晶はきっと力になってくれる」 父はそう言うと少年の頭を優しく撫でた。 撫でられている時、少年は見た。父に握られているエンビスの結晶が山吹色に輝くのを…。
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