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「付き合うわけ、ないだろ。淋しそうにしてたから少し、構ってやっただけだよ」
恐ろしかった。
こんな酷いことを言った自分を瞬時に呪った。
意気地なし、根性なし、最悪だ、最低だ。どんな罵詈雑言を己に向けても冷たい言葉を放った時に感じた痛みを超えることはなく、じくじくと俺の心は棘が深く刺さるように痛んだ。
その時、ドサッと重いものが落ちる音が聞こえた。
振り返ると、いなかったはずの間宮が戻ってきて怯えたように俺を見ていた。
足元に落ちた本を拾おうともせずに、間宮は二、三歩後退するとふらふらと教室を出て行った。
「なにあれ」
「さっきの聞かれたんじゃない?」
「真鍋サイテーだな」
最低だ、俺は。なんてことをしたのだろう。なんでこんなやつらに合わせてしまったのだろう。
げらげらと下品に笑う輪の中で俺は間宮の消えたドアを立ち尽くしたまま見ていた。
間宮はもう俺に笑顔を向けてくれないかも知れない。
声を掛けても振り向いてくれないかも知れない。
もしかしたら、もうあの「ありがとう」という声は聞けないのかも知れない。
俺は、後悔の念に堪えられなくなり教室を飛び出した。背中からからかうような声が聞こえたが、構わなかった。
間宮の姿を探して、桜の木の下へ行ったが居なかった。
なんて言うつもりだったのだろう。謝るのか?
あんなことを言っておきながら、どんな顔して謝るつもりなんだ。
ただ、泣いているんじゃないかと思った。
独りで声も立てずにうずくまって泣いているような気がした。
下駄箱には間宮の靴があった。ということは間宮は校舎の中にいるはずだ。
どこに行くだろう、間宮ならこんな時どこに行くか、考えても考えてもわからなかった。
あんなにたくさん言葉を交わしながら肝心なことは何もわかっていなかった。今まで間宮を理解したつもりでいただけだったのだ。
そのことに気づくと改めて俺は愕然として、目の前が真っ暗になったような気がした。
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