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俺は肝心なところで意気地がない。
こんな状態で間宮に会っても俺はなにも言えない気がした。
出直そうと肩を落とし間宮のいる個室のドアに背を向けた。うな垂れた耳にカターンと大きな音が響いた。驚いて顔を上げると松葉つえが廊下に転がりその先で患者が倒れていた。
バランスを崩してしまったのかもしれない。痛そうに膝をさすっている。
俺は松葉つえを拾うと「大丈夫ですか?」と声をかけた。知らず知らずにかなり落ち込んでいたようで、自分の声が掠れていた。
「……ま、なべ、くん?」
体を起こしたのは間宮だった。両手で洗濯物を持っていたのかすぐ傍に服の束があった。
驚いて動けない間宮と固まって動けない俺は、しばしお互いを見つめ合ったまま静止していた。
「立てる……?」
間宮は俯いてこくりと頷く。支えてやりたいが、俺が触れてもいいのかわからなかった。でも、一人で立ち上がるのに苦労している姿を見ると自然と手が間宮を支えていた。
振り払われるかと思ったが、間宮は何も言わずに俺の手を受け入れてくれた。
ほっとしたのと同時に胸にズキッと鋭い痛みが走る。
やっと部屋に戻ると間宮は疲れたようにベッドへ座り込んだが、慌てて立ち上がろうとして痛みにまたベッドへ腰を落とした。
「間宮、俺の事は気にしなくていいから。横になれよ」
体を固くしたまま、間宮は頷かなかった。沈黙が流れると、部屋の空気も重くなっていく。
「具合は、どう? 足を怪我したの?」
間宮は座ったままゆっくりと頷いた。
「転んだの?」
「……車を……避けたら……バイク、と……ぶつかって……」
話しながら間宮は俺にゆっくりと背を向けた。
顔も見たくないと言う事なのだろうか、そう感じだだけで胸が潰れそうだった。
運んできた洗濯物をゆっくりとした動作で畳む間宮は三日前よりも小さく見えて、俺は何も言えなくなってしまった。
「真鍋くん……ごめん、ね」
「え?」
「……私の、せいで……嫌な、思いした……から」
なんで間宮が謝るんだよ、俺は間宮を傷つけたのに。
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