星の囁き

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 立ち上がった間宮の手を掴んで引き戻す。驚いているのか、動揺しているのか間宮は表情を隠すように俯いてペタンと座った。  何も話さなかったが、予鈴が鳴ると二人で立ち上がり教室へと向かう。俺の少し後ろを間宮は歩いていたが、やがて勇気を振り絞ったように「真鍋くん」と声をかけてきた。  緊張していたのだろう、声が少しだけ裏返って笑いそうになった。  振り返ると、真っ赤な顔の間宮がいて、つい可愛いと思ってしまう。 「わっ私といると、真鍋くんに、迷惑が、かかるからっ」 「別にいいよ。俺、学級委員だし」 「……え? あ、えっと……そう、じゃなくて」  俺はまた「いいよ」と軽く返事をして先に教室へ戻った。不思議と心が浮き立っているのを感じた。  だが、そんな心を打ち砕く存在があった。  家庭だ。  俺には出来のいい兄がいた。当然親は兄同様に出来のいい弟を想像していたのだろう。現実は、中の中。悪くもなければ良くもない、それが俺への評価だった。  不満だった両親の関心はすべて兄へと移された。  淋しいと思ったことはないと言ったら嘘になるが、気持ちと折り合いをつければ気が楽でとても自由だった。  時々、兄が馬鹿にするけどそれもそれで気にならなかった。  親が俺に期待しないように俺も家族に期待することやめたからだ。
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