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「……美雪……言ってみろ……」  夫が近付いてくる。ゆっくりと。私を見据えたまま近付いてくる。  見られてしまった。   「あ……あぁ…………」 「美雪どうした。ほら。今、どこに、誰と入ろうとしてたか、言ってみろ」  ゆっくりとした口調。たけどそこに温度は、人の感情らしいものは何も感じられ無かった。  彼はもう、人では無くなっていた。   「オイおっさん。いまガチイイとこなんだから、マジジャマすん――」 「お前は黙ってろ。 殺すぞ」  “彼”に見詰められた彼は、言葉を失い、青ざめた顔で逃げ出して行った。 「あ、の……私……は……」  “彼”の準備は出来ている。後は私が……。 「わた、し……知らない男を……誘惑、して……」  私の罪を一言口にする度、私が壊れていくのがわかった。  全身の毛穴から汗が噴き出す。涙も、鼻水も、涎も、愛液も。  およそ全ての体液が噴出し始めた。  このまま罪の告白が終われば、私は壊れる事ができる。今の“彼”と同様に、私の儀式が完了する。 「性交を……――」  視界が明暗を繰り返す。  あと一言。  最後に、最も醜悪な決定的裏切りの言葉を口にするだけ。  身体が震える。ガクガクと腹の中身が痙攣している。  私は達していた。繰り返し繰り返し、絶え間無い絶頂に。  そして―― 「――望みました……」  瞬間。何かが切れた。  膝からくずれ、糞尿を垂れ流し、私がドロドロに融けていく。  そんな私を、“彼”が物を引きずるようにして、ホテルの中に連れ込んだ。  儀式が終わり。  宴が始まる。  命を糧にした、再生の宴が。
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