「お久しぶりです」

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「……申し訳ありませんが、この依頼は引き受けられません。代わりをお探しになられては如何かと」 言語道断と言わんばかりのシオンの態度。ギリエムはそれこそおかしなことだと笑って返す。 「昔交わした口約束とは言え、あの時もかなり本気だったよ。今回は形を整え直しただけだ。 そんなに嫌かな?」 「感情の問題ではありません。私にも、帝国に取っても国損だとしか言えないでしょう?」 眉間に皺を寄せるシオンは、まるで老練な政治家のようだ。ギリエムは笑みを深くする。 「意見は人それぞれだな。フィーナはどう思う」 「しーちゃん以外の適任は考えられないわね~」 シオンはつい頭を抱えたくなる気持ちを抑え、嘆息。何を言ったものかと考え込む彼女に、ギリエムが1枚の紙を差し出した。 訝しげに受け取ったシオンの顔色が変わる。 「これは……」 「しーちゃんにも得が無い訳じゃない、と言うことだ。 待遇面も不満は持たせないつもりだよ」 鮮血色の両眼がギリエムを睨む。皇帝は静かな決意を秘めた目を反らすことはなかった。 「私も出来ることは何だって協力する。1人では不可能なこともある筈だ。 グレンが即位するまで、君の力を貸してくれないだろうか。どうか、頼む」 「私からも、お願いします」 夫妻が揃って頭を下げた。嘘偽りの無い真摯な『お願い』。二回りほど年の違う小娘にするようなことではない。 シオンは苦虫を噛み潰したような渋面になり数秒間だけ悩んだが、やがて表情を和らげた。 「頭を上げて下さい」 「では……」 「はい。この件は承らせて頂きます。 ――但し」 安心も束の間、皇帝の顔が曇る。しかしそれは杞憂に過ぎなかった。 困ったような顔をして、シオンは一言。 「出来ればしーちゃんは止めて下さいね?」 .
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