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――彼女は一人きりだった。
その日の夜は長かった。
真っ暗な部屋の中で、ずっと泣き叫んでいた。
声が掠れ、喉から血の味がしていようとも、ひたすら涙を流した。
恐怖のせいか、悲しみのせいか。はたまた安堵したためか。それさえ分かりはしない。
座り込んだ少女の周囲には、いくつもの大きな人形が転がっている。あるものは仰向けになって片手を天へと伸ばし、あるものは片足が欠けたまま床に投げ出されていた。
共通点と言えば、それらの肌はことごとく赤黒く、焼かれたかのようにぼろぼろで崩れかけだったこと。
そして、強烈な臭気と怨念を放っていることだった。
少女も通常の様子ではなかった。頭から足まで至るところに強烈な赤がこべり付いている。
腕に抱くのは数多ある人形の内の一体で、それは今日まで『父』と呼んできた者の成れの果て。
叫ぶ声に反応は帰ってこない。誰かがその家を訪ねてくる気配も全くない。
絶叫はただただ闇に吸い込まれ、消える。
声は何時しか枯れ果て、少女はひたすら地獄の中に座り続けていた。
――異変に気付いた者がその家を訪れたのは、翌日の昼だったと言う。
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