3人が本棚に入れています
本棚に追加
今日は、年に一度の婦人会研修旅行。
研修旅行と言ってはいるが、内容は親睦会。
婦人会に加入している遊子には、ちょっと苦手な行事である。
山谷遊子。40代後半の普通の主婦。普通とは言っているが、実は、遊子は、うつ病の治療を受けているという秘密がある。
それに加えて、内気な遊子は、団体行動が苦手であった。
そんな遊子が、婦人会の旅行に参加したのは、ただの頭数揃え。
人数が少ない婦人会の行事には、半ば強制的な雰囲気があるため、否を言えない遊子は、必然的に、参加となるのだった。
そんな遊子が参加した旅行は、秋の菊人形見学と紅葉狩り。
朝7時。
『これから、紅葉狩りと菊人形見学に行きます!』
婦人会長の宣言で始まった婦人会研修旅行。
バスが出発。
遊子の1日が始まった。
目的地を目指して走るバスの中は、恒例のおやつ回しが始まった。
おやつ回し…それは、自分が持ってきたおやつを皆に回すこと。
飴とか煎餅とかの袋が、バスの中を回る。
『佐々木さんからで~す』
『上田さんからで~す』
バスの中を回る袋を見て、遊子はタイミングを図っていた。持ってきたお菓子をいつ回すか…これは、遊子にとってはドキドキものである。
『よし!!今だ!!』
遊子は後ろの席の大川さんに
『これ、まわしてくださ~い』
言えた!!(よし!!できた!!)…心の中でガッツポーズ…
なんとか、お菓子回しに参加出来た遊子は、一息ついた。
(これで、お菓子回しはクリアできた!!…ホッ…)
内心、安心した遊子は、片耳にだけイアホンして、お気に入りの曲を聞き始めた。少しだけのリラックスタイム。
でも、なぜ片耳だけイアホン…理由は簡単。
話しかけられた時の対策。
常に、気持ちは張り巡らさなければならない。
少しの油断が、長い後悔のトンネルに入り込むから。それが遊子の困った性格である。
そんなこんなしているうちに時間は過ぎ、第一の目的地に着いた。
最初のコメントを投稿しよう!