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「……ミカル……」
小さく消え入りそうな声で、彼は言った。自分の名を。
「ミカルか」
男は口端をあげた。
まるで求めていた何かを見つけたような笑み。
「俺はアドナだ」
彼は何も言わない。表情すら変えない。ただ男を見つめるだけ。
男はもう一度、口を開いた。
「お前をここから出してやる」
彼の瞳が揺れた。
期待と喜びと、そして諦めと不安。それらの色が混じった目。
そして意を決したように男を見た。
「…無理です。ここが何階か知っているのですか?それに、ここに来るためのドアは一つ。ここに来るための道も一つです。見つかればすぐに捕まって殺されてしまいます」
彼は顔を背けた。
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