夢の始まり

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 「我が儘は許されない。お前でなければ、産めぬ」  おきくから言われてしまえば、誰も逆らう事は出来ない。一族の当主の言葉に逆らえるわけが無い。  逆らうならば、一族を離れて生きて行くか――死か。  死を選べる程、我が儘を突き通そうとは思わず、一族を出て生きて行くなど到底出来ない。  一族を出て生きて行くとは、自分の力で生きて全ての責を負う事だが、一族に守られて生きて来た者が、一族の庇護の元で生きて来た者が、自分の力だけで生きて行けるわけが無い。  死は言うに及ばず、一族を出て行く気骨もない小娘が取る道など、言う事を聞く以外、何があると言うのか。  納得をしたわけでは無い。無いが、数少ない選択。頑是ない幼子のように駄々を捏ねていた娘は、黙り込んだ。
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