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「承知仕った、と」
「は。手伝うことはございますか」
政吉は仲間の申し出に先程まで思案していたことを頼んだ。
「小田原屋とお久美の仲を誰が取り持ったのかということと、お久美は前の亭主である三吉との間に子を産んでいる。その子が今、どうしているかだな」
「は。直ちに」
人の気配が消えたのを確認して政吉は水茶屋「鍵屋」を目指す。
きっとお仙の方も政吉の訪れを首を長くして待っている事だろう。
そう思っていたのだが。
「政吉」
「春信師匠か」
鍵屋に向かう途中で絵師に出会う。やれやれお仙とゆっくり会うのはまた後だな、と政吉は密かに思い、脳裏に過った想像にてお仙に似合うだろう珊瑚の簪を渡すのは後回しだ、と一瞬だけ目を閉じた。
「どうだいそっちは」
「お久美の前の亭主の話を聞いてきました」
「そうか。じゃあお仙ちゃんのお茶を飲みながら話を聞こうか」
春信は多分、政吉がお仙と過ごせないことを残念に思っていたことを見抜いているのだろうな、と政吉は苦笑した。
政吉とお仙は恋人同士である。それも二世を誓い合った仲だ。
そのことを春信はあっという間に見抜いたので、今の政吉の心境も見抜いていることだろう。
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