慟哭(な)いた赤鬼

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  * * * * * * * * * * 「……そうさな……其の後数十年、探し回ったよ」 膝より崩れ落ちる蘭樹を後目に、朔天は薄ら笑う。 「伊吹の首と俺の腕は此処に祀られた。……俺をおびき寄せる為であったんだろうなァ」 「……」 「婆に化け、何とか腕だけ取り戻し、だが其の後をつけられておったらしい。 あの時折られた俺の角にて封じられた」 蘭樹の反応は無い。 気にせぬまま、朔天はぐいと酒徳利を傾け、飲む。 「…………… 朧が、渡辺綱(わたなべのつな)であったと」 焦点合わぬ眼のまま、跪き項垂れたまま。 蘭樹の唇より漸く虚ろに声が紡がれる。 其の声は只、垂れ流される様に。 「嗚呼よ」 「あの神は、"私"の事を知っておったのか…、」 「お前が"お前"だと気付いたは最近だろうなァ。 只、"俺"でもあった事は知らねェ筈だ」 「……」 「知っておったらあんなに躍起になって胸の呪い(やどりぎ)を解こうとせぬだろう?あの駄神め。 ……憶測だがよ。此度あの陰陽師に着いて行ったも其れ絡みよ」 其のまま何事か、聞こえぬ程の声でぶつぶつと呟き続ける蘭樹。 朔天は徳利を空にした後、再び社へと目を向けた。 柔らかな風に包まれ、木漏れ日にきらきらと反射する社は、何処か気持ち良さそうに見える。 「手練衆から聞いた話、妖共を襲ったあの妖や狩衣共は京より来たと聞く。彼処に総ては集まっておる筈だが、あの阿呆共め。情報も無しに何をせんとや……」 「…… 京の…今の京の、様子が……知りたい……」 「向かわせたよ。 故に、だ」 「………、なれば」 す、と、蘭樹は立ち上がった。 此処数日の何処か危うい表情は取れ、目には生気と、悲しげな色が揺れている。……其処に、もう"し乃雪"と"蘭樹"の片鱗は見当たらず、茨木童子が初めて出会った蘆屋道満の其れが佇んでいた。 其の眼が、真っ直ぐに朔天を見遣る。 「先ずは、九十九神社にて纏める他に無い。 霞くんは健在だね?」 「嗚呼よ」 「彼女からも話を聞かねばいけない。忙しくなりそうだな、茨木くん」 「大江山を離れた人の時の名に"朔天"と着けてくれたはお前じゃあ無ぇかよ?」 「嗚呼、そうであったね…朔天くん」 其の様に、食われた恨みは見えない。 其の事を聞こうとした朔天であったが、 「……私を食らった事には少々恨みもあるが。 私を思っての行為であったのだろう?」 「あ?………さぁね、忘れた」 「宿り木の事、朔天の名を大切にしてくれた事、どれも礼を言うべき事だ。 きみは友人だよ。……良きか悪しきかは分からぬがね」 目を逸らし、朔天は只一言。 「うるせぇな、」 とだけ、返した。  
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