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だが、月日が経ち成長したのは、なにも翼だけではない。
気がつけば中学三年生になっていた俺も、『人生』という長い旅において、ひとつめの大きな分かれ道の前に立っていた。
******
「――げっ! 一哉(カズヤ)、お前就職組なのかよ!?」
六時間目の授業はロングホームルームで、授業内容は卒業後の進路と進路先の情報を調べ、紙に書いて提出するというものだった。
みんなが資料の本や紙を見ながら真剣に紙に記入している中、俺の席の後ろに座る男――友人の隼人(ハヤト)――は、俺が項目に沿って記入していた用紙を自らの机の上に身を乗り出して盗み見て、驚きの声をあげた。
「ばか、声がでけえよ」
と紙を手で隠しながら小さく怒ってはみたものの既に手遅れだったようで、隼人の声に反応した何人かの生徒は興味津々な表情で俺の席に集まってきた。
「え、一哉就職なんかよ!?」
「何で何で!?」
今どき高校に行かずに就職しようと思うのなんて、大人たちだけでなく生徒たちでさえも、無謀なことだと知っている。
そんなこと俺も知っていて、それでも『就職』を選んだのは、自分なりに悩んだうえでの選択だった。
「高校は行っといた方がよくね?」
「遊べなくなるよ~」
「もしかして金がないとか」
「そう言えば一哉んちって父親いないんだっけ」
「あ、だから働いてお母さん楽にしてあげたいんだ!」
「うわあ、なんかドラマみたいだね」
「えらーい」
それなのに、何も知らないクラスメートたちの間で飛び交う、無邪気で無遠慮な容赦ない『声』たち。
「確か一哉の弟もさ、」
「!!」
勝手に俺の父親や母親を出して、俺を褒めつつネタにして……挙げ句の果てには、翼の事まで持ち出そうとして。
「――うるせえんだよ!」
ガンッ
苛立ちが収まりきらなくなった俺は、思わず机の脚を蹴った。
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