38人が本棚に入れています
本棚に追加
雷にでも打たれたかのように、静まり返る教室内の視線が俺に集まり、他の生徒の相談に乗っていた担任も、何事だとこちらに顔を向ける。
「一哉まじごめん!……ほら、お前らも席に戻れって、」
ひとり俺の心情を察した隼人は、罰が悪そうに眉を垂らしながら両手を合わせると、周りに集まってきていた生徒たちを睨み付け、追い払う。
騒ぎ立ててしまった罪悪感からか、普段怒らない俺がキレたからか、集まっていたやつは戸惑いながらもみんな大人しく席に戻っていった。
******
「みんな、悪気はねえんだよ」
ショートホームルームが終わったあとも、どこか気まずさを残していた教室内の雰囲気に耐えられなかったのか、いつも誰かしらがたむろする放課後の教室に残るのは、俺と隼人の二人だけだった。
「知ってる――だからタチが悪いんだろ」
「まあ、な」
「別に嫌いになったとかじゃねえから心配すんな」
「おう……たださ、ぶっちゃけ俺もそれでいいのか、って思う」
俺は鞄の中に筆箱を仕舞っていた手を止めて、右隣の机の上に座り体を俺に向ける隼人を見た。
隼人の目は真剣だった。
「お前が何の為に勉強してきたのか知ってっからさ」
「……」
「……特待生制度とか、そういうのは考えなかったんか?」
遠慮がちな隼人の問いかけに、俺はぐっと気持ちを奥へ奥へと押し込んで、首を横にふって答えた。
「……俺ってさ、元々勉強とか嫌いなんだよ」
「……」
「就職すりゃ、勉強とはおさらばだし……親父いないとか翼のこととか関係ねえ、俺のやりたいことだよ」
「……パイロットになるって夢は」
「……忘れた」
――嘘だった。
そしてその下手な嘘を、小学生からずっと俺と仲がいい隼人も、絶対に見抜いていたと思う。
「そっか……なら親友の俺は、お前のやりたいことを応援するわ」
でも隼人は優しいから、騙されたフリをしてくれた。
「お前みたいな兄貴、翼も幸せだな」
帰り道別れ際に言われた一言は、俺の選択は間違っていないと背中を押してくれているようで、
「……サンキュー」
隼人に出会えたことを、俺は本当に感謝した。
最初のコメントを投稿しよう!