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「母さん、話あんだけど」
翼が家にいない時を狙って就職すると母さんに伝えると、キッチンにいたエプロン姿の母さんは、両手で顔を覆い床に崩れ泣いた。
「でもっ……一哉、」
「大丈夫だから」
母さんも、俺の夢は知っていた。
「……っ」
それでも反対されなかったのは、翼の入院費だけでなく俺たちの生活費にも、そろそろ限界が来ていたからだと思う。
「……いつも、ありがとう」
「うっ……うぅ」
踞る母さんの首や背中が細くなっていることに気がついて、母さん一人にどれだけ頑張らせていたのかと、俺は母さんの肩に両手を置き、今までの感謝を初めて面と向かって口にした。
「今まで頼りきっててごめん……俺も、一緒に頑張るから」
「……っとう、」
――“ありがとう”。
母さんのか細い声が耳に届いたとき、俺は俺が選んだ選択肢はやっぱり間違っていなかったんだと、少しだけ抱いていた後悔が綺麗に取り払われた。
「母さん」
「……ん?」
「内定もらえるまで、翼には内緒な」
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