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いつの間にか、季節は秋から冬へと変わり、明日から中学校生活最後の冬休みが始まろうとしていた。
ほとんどのやつが受験に向けラストスパートをかけるなか、既に某機械工場の雑用係として採用通知を受け取っていた俺は、今日の帰りに病院に寄って、検査入院中の翼に報告しに行こうと思っていた。
「好き、なんだけど……付き合って欲しい」
けど帰り支度を始めていた俺は今、思わぬ足止めを食らってしまっている。
十二月二十四日というクリスマスイブのムードに押されたのか、隣のクラスの矢野夏美が友達二人を引き連れて、なんと俺なんかに告白をしてきたんだ。
「一哉やる~」
「……」
隼人を含め、まだ何人か教室に残っているのにも関わらず。
「返事、欲しいな」
野次や好奇な目にさらされながらも、潤んだ瞳でジッと俺を見上げてくる矢野。
元バスケ部だった矢野は、夏に引退してから髪を伸ばしているのか、耳元で二つに結った髪はまだちょこんとしていて、室内スポーツだったせいか肌は白く頬は綺麗にピンクに染まっている。
顔立ちも可愛い、とは思う。
けど好きになるほどお互い親しくもなんともないし、顔見知り程度の仲だと思っていた。
「悪い、気持ちは嬉しいんだけどさ」
「……え?」
だから俺にとって断ることは当たり前なのに、矢野夏美は信じられない、とでも言うように大きく目を見開き固まった。
周囲で見物していたやつらも、ニヤニヤと笑みを浮かべる隼人以外は矢野と同じような反応ばかりで、中には気まずさから逃げるように帰っていくやつもいる。
矢野の連れの一人が「ちょっと!!」と、焦ったように声を張り上げた。
「夏美に何の不満があんだよ、他に好きな子いんの??」
「いねえけど、」
「ならいいじゃん!!」
「……」
『なら』、の意味がわからず思わず眉根を寄せ黙っていると、矢野夏美はみるみるうちに目に涙を浮かべていく。
「何が、駄目なの?」
「何が、つーか……俺は矢野のことよく知らねえし」
「これから知ってけば、」
「『なら』、付き合ってからじゃなくていいだろ。俺には好きでもないやつと付き合うとか無理」
「正論だけど、毎度ながらバッサリいくねー」
隼人がけらけらと笑っているのを横目に、俺はもう一度矢野に言った。
「気持ちは嬉しいんだけど、ごめん」
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