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反射的に閉じた瞼を開けると、足元には、さっきまで翼が読んでいた雑誌が落ちていた。
「ったく、……翼?」
俺は翼のいつもの悪ふざけだと思い、雑誌を拾って笑い半分に翼を睨んだが、翼の表情には、いつものようなふざけた様子はなかった。
閉じたカーテンの窓の外は、もう日が落ちかけていて薄暗くなり、コッコッと秒を刻む音を奏でる時計は、もうすぐ短針が5の数字に差し掛かろうとしている。
「何で、フッたんだよ」
翼の声のトーンは、いつもよりも一オクターブほど低い。
雑誌を手にしたまま呆然と立ち尽くしていた俺も、翼は怒っているのだと気がつく。
「……好きじゃなかったからに決まってんだろ」
「付き合えば、好きになるかもしれねえじゃん」
「俺はそういうの嫌なんだって」
「付き合えばいいじゃねえかよ」
「何ムキになってんだよ」
けどその怒りがどこから来ているかはわからず俺も段々と腹が立ってきて、思わず語尾が荒くなる。
「好きでもないのに付き合ったって、」
「……らかよ」
俺の話を遮り、ふいに震えた翼の声。
病院。
ベッド。
「翼、」
何故か俺の脳裏に“あの時”の翼が過り、背筋にヒヤリと冷や汗が流れたとき、翼が俺の胸ぐらを掴んだ。
“――……俺っ、何で……何で、産まれてきたんだろう……っ”
「俺がいるからかよ!?」
目に、たっぷりの涙を浮かべて。
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