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傘もささずに雨に打たれるその子に、コンビニの店員や通りすがりの人たちは、みんな露骨に眉をひそめ、見て見ぬフリをしていた。
ストローを口にくわえているものの、紙パックの中身はもうないようで、潰れた状態で雨に濡れ、絵柄の動物が悲しげにしおれていた。
雨と紛れて零れ落ちるその子の涙に気がつかなければ、俺も、周囲のやつらと同じような反応をしていたと思う。
「何で、泣いてんの?」
「……」
突然差した傘の影に、女の子は驚きもせず、ストローを口から離し、首を後ろに倒すと、背後に立つ俺を見上げた。
見えた女の子の顔は、ギャルと呼ばれる類いで、濃い化粧が施されているようだったが、正直、雨と涙で全体的にぐちゃぐちゃだった。
「……風邪ひくよ」
「っ」
俺はズボンのポケットの中から、入れておいて使っていなかったハンカチを取り出し、女の子の顔にのせてあげた。
女の子の顔にあった水滴が、ハンカチへと染み込み、その部分の布の色が暗くなる。
女の子は、落とさないように咄嗟に手で押さえたハンカチを、そのまま押しつけるように、顔に当てていた。
ある程度、表面の水分を吸い込み終えたはずなのに、ハンカチの染みは、ある二ヶ所を拠点に、さらに拡がっていく。
「……だの」
「え? なに?」
くぐもって聞き取れなかった女の子の声に、俺は傘を女の子の方に差し出したまま、女の子の左斜め前に回り、しゃがみこんだ。
「うわっ!?」
すると、突然。
女の子は紙パックを手放し、しがみつくような勢いで、俺に抱きついてきた。
地面に尻餅をつきつつ、俺は咄嗟に女の子を支えた。
「死んだの!」
俺の手から放れた傘の柄が、アスファルトの上に落ちるのと同時に、女の子が叫んだ。
「お母さんが、……死んだの!」
女の子の悲痛な叫びが、誰もいない、コンビニの駐車場に響く。
「うぅっ……うぅ」
「……」
暫く呆然としていた俺は、咄嗟に女の子の背に回していた腕で、泣きすがる女の子を強く抱きしめた。
親を失う悲しみを知る俺は、名前も知らない女の子の悲しみを、見てみぬフリが、出来なかった。
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