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飲み物の入ったコンビニ袋と一緒に、ずぶ濡れの女子高生を連れて帰ってきた俺に、食堂で昼食をとっていた社員が全員唖然とし、箸を持つ手を止めた。
「……一哉、なんだこの子は」
一人椅子から立ち上がり、俺たちの前に来たのは、俺を雇ってくれた社長兼、工場責任者の有吉(ありよし)さん。
有吉さんは、眉根を寄せて俺と女の子を、交互に見た。
「……ダチか?」
「この子は、友達じゃ、ありません」
「……」
「彼女、とかでもないです」
有吉さんの視線が繋がる手に落ちたのを察し、聞かれる前に先に否定した俺に、有吉さんの眉間のシワが濃くなる。
「……まさか一哉、誘拐なんて」
「してません!……服を貸してやったら、直ぐに帰すんで、中に入れてあげても、いいですか?」
「……」
「……」
肩を揺らし口を引き結んだ有吉さんに、やっぱり、職場に私情を挟んじゃ駄目ですよね、と俺は踵を返そうとした――のに。
「一哉と……女の子」
「一哉が」
「あの一哉が」
食堂内に包まれていた沈黙が、誰かの呟きにより打ち破られ、そしてそれは、波打つ水のように拡がっていく。
「弟一筋の一哉が」
「働きマンの一哉が」
「何度合コンに誘っても、行かないの一点張りの一哉が!」
「AVにも興味がないとか言って、ホモ疑惑が浮上する一哉が!!」
「とうとう」
「男になるのか!!!」
「だから、違いますってば!」
お前ら本当に大人なのか、とツッコミたくなるほど恥ずかしいくらいに大きな声になってきたところで、工場内に俺の悲痛な叫び声が響いた。
再び食堂内に沈黙が流れるなか、有吉さんが、優しく俺の肩に両手を乗せる。
好き勝手言われる俺に、同情するかのように、哀れんだ目で見てくる有吉さんが、この場で唯一の味方のように思えた。
「事情は良くわからんが……その子に服を貸したら、お前もそのまま帰っていいぞ」
「有吉さん、」
「男になって来い」
「……」
俺の選んだ道は本当にここで良かったのか、激しく悩んだ瞬間だった。
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