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俺の話をネタに盛り上がる食堂はかなり居心地が悪くて、『お疲れ様っした、お先に失礼します!』と早々にあとにした。
俺は女の子の手を引き、徹夜組用に工場内に完備された、シャワー室に向かった。
年齢的に深夜は働けない夕方あがりの俺も、作業で顔に油が跳ねた日に、シャワー室を使わせてもらうことがある。
「悪い、これしかないや」
シャワー室と繋がる更衣室の棚からタオルと、同じ棚から一番小さいサイズの作業着を取りだして、女の子に渡す。
すると女の子は受け取った作業着を見つめ、泣いて腫れた瞼を、伏せた。
「あの……ごめんなさい」
「別に気にしなくていいよ、そのサイズを着れる男なんていねえから、誰も文句言わないだろうし」
「そうじゃなくって、」
「ん?」
(……あ)
じわりと、女の子の目に涙が浮かび始めた。
「……迷惑、かけちゃったか、らっ!?」
――衝動的だった。
俺は落ち込んだ翼にするときみたいに、ぐしゃぐしゃと女の子の頭を撫でていた。
「あ……わり、つい癖で」
頬を赤らめ固まる女の子に、もしかしたら変態扱いされたかもしれない、と背筋に冷や汗が流れ、俺は慌てて女の子の髪から手を離した。
「と、とりあえず、そのひでえ格好をなんとかしろよ」
「酷いって……って、うわ、本当に酷いですね」
浴室と繋がる更衣室には、壁に鏡があり、俺が指差した鏡を見た女の子は、鏡に映る自分の姿を見て、口元を引き吊らせた。
雨に濡れてしなっていた女の子の髪は、俺の手により、さらにぼさぼさになっていて、崩れた化粧も手伝い、今の女の子の姿は、悪い方の意味で、ヤバイ。
「……見ての通り男所帯だし、悪いけど下着とかは置いてねえから、自分のつけといて」
「……下着」
「なんか言ったか?」
「い、いえ! ところで一哉さん……あ、一哉さんでいいですか?」
「いいよ別に。つか、もしかしたらあんたのが先輩だし、呼び捨てでいいよ」
「……え?」
「え?」
「……」
「……」
「一哉さんて、いくつ?」
「十五。二ヶ月後くらいに十六」
「ええええっ」
俺に人差し指を向けて、大きく口を開いた女の子の顔は、冗談抜きで、ホラーだった。
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