彼女と俺

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 女の子がシャワーを浴びている間に、俺は煙草の臭いが充満しているロッカー室に移動して、自分の名前が貼られたロッカーから、荷物と靴と、服を取り出して、着替えた。  作業着を中のハンガーにかけながら、壁にかけられている、丸い時計を見上げる。 「……まだ、大丈夫かな」  もう一度シャワー室に行くのは、十分後にと決め、ロッカーの扉を閉めた。  ジーパンの後ろポケットに入れておいた、煙草の箱とライターを取り出し、パイプ椅子をひとつ引き寄せる。  椅子に腰掛けると、ギッ、と小さく軋んだ音が鳴った。  煙草を箱から一本抜いて口にくわえ、ライターを擦って、煙草に火をつけ、深く煙を吸い込んだ。  コッコッ……と、時計の針が、秒を刻む音が響く。  俺は煙を吐き出して、床を見つめ、コンビニの前で泣き叫んだ、女の子の姿を思い浮かべた。 “――お母さんが、死んだの!” 「傘もなければ、荷物も無し、財布も無し……か」  もしかしたら――と過った考えを、俺はどんな偶然だ、と自嘲気味に笑い、打ち消した。 「今日は、早めに翼んとこ行くか」 ****** 「雨……ひどくなってるね」  工場の裏口の扉を開けた女の子は、さっき貸した作業着姿で、ビニール傘を開いた。  続いて俺も、自分のビニール傘を開いた。 「コンビニまで送るわ」 「ありがとう……ございます」 「無理すんな、タメ語でいいよ」  とりあえず、女の子をコンビニまで送り届けようと思った。  裏口を出てすぐにある、小さな本屋の、前の道を、女の子の歩幅に合わせて歩く。  雨が地面を打つ音、車が横を通りすぎていく音、人が水溜まりを踏む音風が空気を揺らす音。 「まさか、タメだなんて思わなかったな」  色んな音が溢れるそこへ、聞き心地のいい女の子の、声の音が落とされる。
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