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「まあ、この歳で働いてるやつなんて、珍しいもんな」
俺が、空いている左手で後頭部をかきながらそう言うと、女の子は、慌てて首と右手を大きく横に振った。
「そうじゃなくって!なんか……しっかりしてるから」
「そうか?」
「うん、大人っぽいと思う」
「いやいやいや」
「……なんか、恥ずかしくなっちゃったし」
「え、何が?」
突然、俯いた女の子。
「馬鹿みたいに、泣いたから」
「……」
俺は、ぽん、と女の子の頭を叩いた。
――あ、やべ、また翼んときみたいにやっちまった。
そう冷や汗が流れかけたけど、顔をあげた女の子は吃驚した表情を浮かべただけで、咎めるような視線は向けられなかった。
「……アンタが家族を大事にしてる証拠だろ、恥ずかしくなんかねえよ」
「……」
「どうした?」
「……やっぱり、一哉くんは大人だなって」
「……」
コンビニの看板が、見えてきた。
けれど女の子が立ち止まるから、俺も一緒に足を止める。
空の色は相変わらず黒みがかった灰色で、雨が止む気配は、ない。
「大好きだし、感謝はしてた……けど、大事になんか出来てなかった」
「……」
「信じたくなかった、何も見たくなかった……だから、逃げてきたの」
「……」
「今も、怖いよ……どうしよう」
震える声。
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