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でも、いくら待っていても、父さんが帰って来ることはなかった。
『一哉、やめなさい!』
『やだ、やだやだやだ!とう、かえってきてええっ、う、わあああんっ』
二週間後、俺は漸く、“父さんの死”を受け入れた。
受け入れた瞬間、虚しさや、寂しさ、会いたいのに会えないことの辛さが、俺の胸に溢れ、物を掴んでは壁に投げつけ、喉が痛くなるまで、泣き叫んだ。
“死”とは、もうその人に会えないということを、初めて知ったときだった。
ぽっかりと、胸に空いてしまった穴は、きっと誰にも埋められない。
誰も、その人の代わりになんてなれない。
なにか別のことで頭がいっぱいになったとしても、ふいにどこかで思い出しては、会いたいと願う。
時が経つに連れて、思い出という名の蓋も出来るようになったけれど、その蓋をはめる作業にも、俺には長い時間が必要だった。
******
(からかわれるし、話過ぎちまうし……なんか、駄目だわ今日)
俺は、翼のことは話さなかったにしても、見ず知らずの女の子に、父親を失ったときの悲しみを話してしまったことに、自分自身に吃驚していた。
「……お願いが、ある」
俺が自己嫌悪に浸っていると、こらえるように唇を横に引き伸ばし、ぽろぽろと涙を落とした女の子は、袖口をこすりつけるようにして、涙を拭った。
涙で揺れる瞳に見上げられ、俺の胸がどきりと跳ねる。
――そこに、衝撃的な一言が落とされた。
「付き合って、欲しい」
「……え?」
俺は、あんぐりと口を大きく開く。
「え?」
女の子は、こてんと首を傾げる。
「……あ!」
俺がゆっくりと瞬きを繰り返していると、首を傾げていた女の子は何かに気がついたような表情を浮かべて、一気に頬を赤く染め上げた。
「や、いや、ちがくてね、――病院に!!」
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