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生温かいモノが飛び散ってきた。
紅。
夕陽の橙に染まった部屋の床に鮮やかな紅が彩りを添える。
手に残る嫌な感触。
握っていた包丁を慌てて放し、立ち上がると、古びた狭いアパートの部屋の中を後退りした。
自分の足元には、胸に包丁が刺さったままの白髪混じりの中年の男が横たわっている。
動かない。
死んでしまったのか?
否。
殺してしまったのか?
俺が。
確かに自分に殺意はあった。
殺してやるつもりで包丁を手に取った。
しかし、今、自分の感情を支配しているのは越えてはいけないモノを越えてしまった事への恐怖。
ここで倒れているのは、最低な男だ。
死んで当然なんだ。
自分に言い聞かせる。
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