1-足の無い少女

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人は到底理解できない現象を見ると好奇心か湧いてくる。それもわからないわけじゃない。 緑川が幽霊を見たとすれば「出たー!マジで見えた!」と、そういう反応なのだろうが自分が見たとしたら「何故あの人は霊になってまでここにいるのか」というところが気になってしまう。 それは恐らく緑川の言うように、翠都の真面目な性格がそう考えさせるのかもしれない。 「でも付き合ってくれるよな、翠都」 「まぁ、見えないし」 結局は見えないし、テレビ番組の多くは作りものだから幽霊というのは信じていない。 ひとつの意見としてそう思うだけで信じていなければ結局考えるだけ無駄というもの。多分緑川のようにフィクションとして楽しむのが正解なのだ。 「あ、そろそろ時間だ!あと2分!」 「ギリギリだな」 階段を降りて先程の廊下を見渡すと、1時間も経てば先程よりも暗さを増していた。 夕暮れの赤い日差しがより一層不気味さを際立たせている。 「あと26分!」 「やっぱ出なかったな」 「見えてないだけでいるかも!!」 「あ、緑川後ろ…」 「ヒェー!!!」 「うるさっ。ほら、帰るぞ」 17時26分、廊下を半分ほど歩いて窓のそばまで来ても結局何も見えることはなかった。 「ほら、帰ろ」 「そうだなー。翠都ん家は今日ご馳走かなー」 「父さんが出張でいないし、母さんも一緒だから誰もいないし帰ってから考える」 「え?!とーちゃんとかーちゃん仕事?!なんだよ言えよー!家行って祝っちゃる!!」 非日常へ踏み込むことはなく、くるりと踵を返し、あとはこのまま帰るだけ。そのはずだった。 「っー?!」 キーン、と耳から頭の奥まで突き刺すような耳鳴りが視界を大きく揺らした。 「翠都?どうしたんだ立ち止まって」 緑川が声を掛けても返事はなく、両耳を塞いで立ち止まった翠都は動かない。また怖がらせようとしているんだろうと顔を覗き込むと翠都は目玉がこぼれ落ちそうな程に目を見開いたまま固まっている。 「翠都、翠都!」 「緑川…」 やっと声が届いたようでゆるゆると顔が上がり、ゆったりとした動作で後ろを振り返った。 「来た」 「ん?」 「聞こえないのか?」 「??」 ペタ、ぺた、と床を素足で歩くような音に続いて、何かを引きずるような音。 廊下の電気がそれに合わせてチカチカと点滅し、最後にはパチンと音を立てて消えた。
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