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明かりの無い長い廊下を照らすのは大きな窓から入ってくる赤い夕日。
夕日が作る長い影が暗がりを作り、そこから何かが這い出てくるがソレを視認することができない。酷い耳鳴りは頭のてっぺんまで響いて頭痛を引き起こし、翠都の視界をぐらぐらと揺らしていた。
「翠都、おーい」
流石に何か異変が起きているのだと気付いた緑川が翠都を連れて行こうと腕を引いたそのとき、翠都の呼吸がひゅっと短くなる音が聞こえる。
「翠都・・・?」
「っ・・・走れ!!!」
視界は相変わらずぐらぐらと揺れているが音の出所を理解した翠都がふらつく足にどうにか力を入れて走り出すと、緑川もそれに続く。
「どうしたんだよ翠都!」
「いいから止まるな!まだ来てる・・・!」
「来てるって、まさか」
「お前が行ってた女の子の霊だろ、多分」
「怖がらせようとしてる?!」
「俺がそんなくだらないことするかよ!!いいから走れ!」
「多分ってことは見えたわけじゃないんだろ?」
「見えてない、今もなにも」
特別棟から校門まで走り抜けてようやく翠都の足が止まった。
「翠都、一旦休憩…」
「ダメ、学校から出てからだ」
「ええー!」
何かがあの場所で起きた、それはわかるものの見えても居ないし聞こえても居なかった緑川は暢気なもので、今も微かな耳鳴りと頭痛が残る翠都からすれば横っ面をひっぱたいてやりたい心境だがとにかく学校から離れなければ気持ちが落ち着かない。緑川が後ろで騒ぐのを無視して校門を抜けた。
「はー…」
「やっと休憩か?でもここまで来たなら翠都の家行こーぜ」
翠都が足を止めたのは学校から10分ほど歩いたところにある広い公園のベンチだ。ここまで来たなら家に帰ってしまえばいいのにと緑川が言うがとても走れるような体力が残っていない。
「無理、疲れた」
「ほんとに居たのか?」
「多分」
「その多分って何!」
「あのとき、耳鳴りと頭痛が酷くて目の前ぐらぐらで、見えてなかったんだよ」
「そういや、なんか具合悪そうだったな。今大丈夫なのか?」
「まだちょっと頭痛いけど、大丈夫」
呼吸が落ち着いた頃、先ほどの不可思議な現象について頭の中を整理することにした翠都は一つずつ思い出していく。
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