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17時26分、時計の針がさしたのとほぼ同時だったと思う。
電灯の点滅、停電が起きて赤く染まった廊下を見て、誰かの足音が聞こえたそのとき、突然高音の耳鳴りが脳天まで一気に響き、頭が割れそうなほどの頭痛。緑川の声さえかき消すような耳鳴りだったのにその隙間で足音だけは聞こえていて、けれど足音だけじゃなく何かを引きずるような音がしていた。
裸足の足音、引きずる音、体の不調、それだけで幽霊が出たと信じるような翠都ではない。なぜあの時、「幽霊が来た」と思ったのか理由があるはずだ。
「何であれが七不思議の女の子だと思ったんだ…?」
「なんでって、翠都が自分で言ってたろ」
「見えてなかったんだ、でもそうだと思った。なにか、理由が」
特別棟は殆ど人が寄り付くことが無い、あの時特別棟に居たのは確かに翠都と緑川だけだった。廊下の奥に行くには二人が座っていた階段の前を通らなければいけないから間違いなく誰も通っていない。廊下の奥は行き止まりで出入り口は無い。
だからあの時足音がするのはおかしかった。それにあれは本当に足音だったのか。
人の足音にしてはやけに音が軽かったような気がする。
「まるで、手で這ってるような…」
ぺた、ぺた。ずるる。続いた音は何かを引きずる音だった。
「体、を」
「翠都?」
赤い廊下を見ていたはずの翠都の視界は耳鳴りと頭痛のせいでぐらぐらと揺れていて良く見えていなかったけれど、音の理由を理解したときそれは頭の中で輪郭を取り戻し始めた。
「は、はっ、ひ・・・」
「翠都、翠都!どうしたんだよ急に!」
ぺたぺたと血に汚れた両手で体を引きずり、濡れて重たくなったスカートには足のふくらみはなくぺったりと床に張り付いていた。動けずに居た翠都の目の前までゆったりと進み、緑川に腕を掴まれてやっと走りだろうとした頃にはもう翠都の足元にまで来ていた。今になって鮮明に見えるその光景に翠都の呼吸が不規則になりはじめる。
「あの時、走って…それで、」
走り出したがその後はどうなった、後ろを振り返らずに走っていたが振り切ることができたのか考えるだけ無駄だとわかっている。振り切ることなんてきっとできなかった。足元まで来ていた彼女はもう自分の足に触れていた。
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