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彼女から逃げ切ることはできなかった。気付いた翠都の耳元でまた酷い耳鳴りがした。
「う、ううう、う足、あし…」
様子の変化に気付いた緑川が救急車を呼ぼうと携帯電話を開いたとき、後ろから伸びてきた手がそれを止めた。驚いてベンチから飛びのいた緑川が振り返ると、どこかの学校の制服を着た男が立っていた。
「入られたんだね、可哀想に」
「は・・・い?」
「足、あし・・・わた、しの足・・・」
ぶつぶつ、と何かを言っている翠都に耳を寄せると掠れた声で同じことを言っている。それは翠都の言葉ではなく七不思議の少女のものだ。怖がらせるためにやっているのではないと十二分に理解している緑川は泣きそうになりながら翠都の手を握った。こんなこと誰に相談すれば良いのかもわからない。
「翠都・・・どうしよ。俺のせいだ・・・」
「遅かれ早かれこうなっていたと思うよ。君、名前は?」
「緑川陽、っす」
「緑川くん、この子の家はここから近いかな?」
「10分くらい…」
「10分か、間に合うかな。この子の家に行こうか」
「あの、何を」
「ああ、忘れてた。僕は架神雪鬼、高校一年生で・・・退魔師」
「たい、まし?」
「こういうのを専門に扱う仕事してるんだ。信じられないかもしれないけどあまり長く放置することもできないから案内してもらえるかい?」
自己紹介をした架神が翠都の様子を確かめるべく顔を覗き込むと、翠都は先ほどと変わって静かになっている。ゆったりと頷くように瞬きを繰り返している。
「架神、くん?翠都は」
「彼、以前から幽霊とか見えてたのかな」
「どっちかっていうと信じてないほうだったから見えてなかったと思う…ます」
「そう・・・今日って何か変わったことあったかい?ほかに」
「変わったこと・・・っても、翠都の誕生日くらい」
「誕生日?」
「翠都、今日で15歳で。なのに、こんなことに巻き込んじゃって、俺」
「そうか、もう15歳に・・・」
「?」
緑川に背を向けている架神の小さな呟きは届かない。
「案内よろしく、緑川くん」
「うっす」
翠都の肩から手を離した架神は翠都を軽々抱え上げると緑川と共に翠都の家へと向かった。
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