1-足の無い少女

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走ること10分、到着した翠都の家に駆け込む。今日は両親ともに出張でいないと言っていたから丁度良かったのかもしれない。乱暴に脱いだ靴はそのままに玄関に上がってそう離れていない居間に翠都を寝かせた。 「翠都、まだ起きないな…」 「本当は無理矢理引きずり出すんだけど、少し様子を見ようか」 「なんで?!」 「敵意が感じられないんだよ」 「敵意…?」 「翠都くんを死なせようとしている感じではない、というか」 「やっぱ、幽霊って人を殺すために憑くんスか?」 死後も霊魂となって彷徨う霊は死んだことに気付いていなかったりすることもあるがその殆どは未練や恨みがあって成仏できずに居る。生きている人間を羨んでいて妬んでいて、まだ生きていたかったという思いから憑いてしまったり、同じにしてやろうと徐々に衰弱させたりする。細かい説明をすると長くなってしまうから大まかに言えばそういうこと、と架神は話してくれたが緑川の顔は理解しているかどうか怪しいものだ。 とにかく、翠都を殺すために憑いたわけではない。もしくは最初はそのつもりだったが翠都に憑いたことで何かが変化したのかもしれない。目を閉じたまま動かない翠都を見て架神がそんなことを言った。 「元々は何も見えていなかったんだね、翠都くんは」 「信じてなかったし見えないから一緒に来たって今日も」 「でも今日初めて見えた・・・何か条件が揃ったのかもしれないね」 穏やかそうに落ち着いた声で話す架神は高校生にしては落ち着いていて、怪しいと思うどころかついその言葉を飲み込んでしまう。 「退魔師ってなるとわりと何でも見えるけど、普通に霊感がある程度だと全てが見えるわけじゃないんだ。条件揃えば・・・波長があうっていえばわかりやすいかな。それがあれば普段見えなくても見えることがある」 「条件と波長」 「どうせ起きるまで待たなきゃいけないし、一つずつ考えていこうか。君たちは今日どこで何をしてたんだい?」 今日何をしていたのか、何をしていてこうなったのか。 まず今日は学校の七不思議を見に行きたいと緑川が言い出したことから始まり、幽霊が出るという17時26分に廊下に立った。
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