序章

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 俺は常軌を逸脱した境遇に生まれ、その身に宿した能力も相まって、「北半球最強の悪魔組織の幹部」という大それた配役をこの世界に突きつけられた。  俺の意思とは無関係に、神は俺を非日常に放り込んだのだ。  常人ならそこに踏み込まずに一生を遂げるであろう、超常現象の世界。これは逆もしかりであり、俺は普通の平凡を生き抜くことが許されなかった。  毎日死と隣り合わせの毎日。魔法や超能力の存在は、悲しいことに俺の中では当たり前のものだった。  俺のような常軌を逸した人間は実は世界中にたくさんいて、総じてダークスと呼ばれている。このダークスというレッテルはどこへ行っても俺につきまとい、俺という存在がいかに異常であるかの指標とされてしまう。  しかしだ、最近の俺はひとつだけ、このレッテルを忘れられる場所を見つけた。  俺の生まれ故郷である日本の文学、ラノベと呼ばれる書籍郡が日本で流行っているらしいが、このラノベ、俺の想像を遥かに凌駕した素晴らしい代物だった。  そこに描かれている平和、美少女ハーレムシュチュエーション、学校の奇妙な部活動で楽しむ中高生たち。いっときの青春や、そう!萌える青春!萌える恋ッ!  日本のオタク文化を通して伝わって来る争いのない光あふれる世界。いつの間にか俺はラノベの虜になっていた。  青春ラノベに描かれる平和な世界の美少女たちは、ツンデレ、ヤンデレ、ボクっ娘、天然、不思議ちゃん、ロリっ子などの日本発祥の上級テクを駆使して「平和」と「刺激」の両方を提供してくれる。  ラノベに出会うまでは危険のない刺激や刺激のある平和なんて知りもしなかった。この衝撃は天よりも高く海よりも深い。そうして心は、そんな青春ラノベの世界への憧れを加速し、膨張させていく。  そしてついに募る思いが爆発した今日、現在地は長年拠点にしてきたフランス領ギアナに位置するデビルズ島、ざわめく深夜の森にて、計画した船出の日を迎える。俺はこの組織を脱出して日本に進出するんだ。そう、憧れの日本に!  現地の国語力には電●文庫やM●文庫の大抵の青春ラノベを読破した俺に死角はなく、裏ルートで入手した日本の青春アニメや青春漫画を参考に、文化調査もばっちり。あと残る問題といえば俺の日本進出を絶対に許してくれないであろう親父の脅威だ。  
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