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卓袱台の上には必ずキャベツが並んでいた。
サラダも炒めものも、漬け物も味噌汁の中身も、キャベツを口にしない日は無かった。
「とうとうキャベツが一玉百円でスーパーに並び始めた。悪い事は言わん、レタスに切り替えた方がいい……、潮時だ」
農協の人が親父にそう言いに来たのは俺が中一の夏だった。
「その内値は上がる。去年だって余所が不作で倍の値段がついた」
「そりゃたまたま余所が不作だったからで、そろそろ腹を括りなよ」
親父は首を縦に振ることは無かった。
そんな親父が嫌いだった。
親父がレタスさえ作れば『キャベツ』というアダ名は消えて無くなると思っていたからだ。
親父の後に入る風呂も嫌いだった。
脱衣場に入った途端に、土の匂いが微かに鼻を突いてくる。
あの頃の俺は土の匂いを避けていた。
……、キャベツと呼ばれたく無かったから、置いて行かれたく無かったから……。
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