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「ならば、出てゆけばよかろう」
それを言われてしまうと行き場を失う彼なのだ。
悔しさを両手で握り締めて項垂れる。
そんな様子を見ていた洋館の主はというと、悪魔の笑いをケタケタと撒き散らす。
「御主がこの場所に求めておるのは、正義感でも優越感でもなかろうが。
同時に妾が任されておるのは、御主を悪に引き込むような事なぞでも無い」
「……」
「安定した生活を提供し、尚且つその病を治すこと。それが御主に対する妾の使命じゃ」
エスの意見が尤もだったわけで、磨白の気持ちは僅かながら吹っ切れたような気もした。
けれども、未だ彼女を信用しきれない自分もいる。
こんな悪どい仕事をしていて、果たして本当に自分の病を治してもらえるのかと。
「それでも出てゆくというなら好きにせい。考える時間なぞいくらでもあろう。
……とまぁ、ひとまずは妾の手伝いとして、この着物をモモに渡してくりゃれ。間もなく客が来るのでな」
「……わかったよ」
温さの残る衣類を手渡され、磨白は首を俯かせたまま蝋燭臭い部屋を出た。
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