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三成は、いつの間にか少年の方へ走り出していた。
腕を伸ばし、少年の小さな小さな体を抱きかかえる。
そのあまりの軽さに、思わずぞっとしてしまった。
まるで、羽か何かのように軽い。
本当に腕の中にいるのかどうかすら怪しくなるほどである。
そして少年が三成の腕の中に収まった瞬間、幻だったかのように桜が消えてしまった。
周りの景色も、他と同じ冬の山林へと戻る。
いつの間にか吹雪は止み、空は綺麗に晴れ渡っていた。
日がすっかり姿を隠し、東の空には幾つか星が瞬き始めている。
「何なんだ、こいつは……。おい、起きろ。おい」
少し揺さぶってみるが、ぴくりとも動かない。
その紅葉のような小さな手のひらが、三成の陣羽織をぎゅうっと掴んだ。
すがるように、助けを求めるように。
「……兎に角、この子を連れて戻ろう。半兵衛殿に報告しなくちゃな。それに、この子が何か知っているかもしれない」
「ああ」
かなり遅くなってしまったことも詫びねばなるまい。
三成は、面倒だからと少年を家康に押し付けようとした。
が、少年の手が三成の陣羽織を掴んだまま離さない。
「……腕を切り落とすか」
「そんなこと駄目に決まってるだろ!」
家康に即座に却下され、三成は舌を打つ。
餓鬼は嫌いなのだ。
すぐ泣き喚くし、我儘だし、喧しいし、ちょっとした事で死んでしまう。
そうなると、その餓鬼の家族やらがまた喧しく泣き喚くのだから、非常に悪循環だ。
故に、出来れば関わりたくない物の内でも一、二を争う物である。
しかし離れないとなれば、自分が抱えて行くしかない。
三成は忌々しげに少年を抱え上げ、不機嫌絶頂で歩き出した。
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