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薬師は、少年を挟んで向かい側に座っていた半兵衛に向き直る。
その顔には、少なからず苦渋が浮かんでいた。
ゆっくりと重そうな口を開く。
「体がかなり冷えております。手足に凍傷を負っており、状態もよくない」
「……っ」
家康が膝の上に置いた拳を握りしめた。
力の入れすぎで白くなっており、小さく震えている。
青白い少年の顔を、心配そうに見つめた。
その瞳は、まるで身内か何かが死に直面して居るかのような、深い悲しみと痛みを浮かべて揺れている。
どうして先程偶々会っただけの他人に、其処まで感情移入できるのか。
確かに死なれてしまっては話が聞けなくなって少しは困るだろうが、其れだけだ。
三成にはさっぱりわからない。
薬師は、部屋の温度を高いまま保つこと、凍傷を負っている手足を湯か人肌で温めることなどを細かく指示し、
「患部を温めている際、神経が解凍されて激しい痛みが出るかも知れませぬ。痛み止もございますが、斯様に小さな童には、負担が大きすぎます故……」
「……解った、ありがとう。また何かあったら宜しく頼むよ」
半兵衛が礼を述べると、薬師は勿体ない言葉だと頭を下げながら部屋を出ていった。
ぱたん、と襖が閉まる音。
暫しの沈黙が、部屋の中を支配した。
火鉢の中の炭が爆ぜる音が、嫌に大きく聞こえた。
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