25人が本棚に入れています
本棚に追加
重い沈黙を破ったのは、半兵衛だった。
「其れで、この子は一体どうしたんだい?」
すっと目が細められる。
先ほどまでとは、雰囲気が全く異なっていた。
言うなれば、『軍師の顔』になっている。
顔を見合わせる、三成と家康。
「えっと、それが……」
家康が、森で起こったことを始めから説明した。
酷い吹雪に合ったこと。
吹雪が不自然に止んでいるところがあり、其処に満開の桜が立っていたこと。
桜のすぐ近くに、此の少年が居たこと。
少年が意識を失うと同時に、桜の花が消え失せてしまったこと。
話している間にも、あれは夢だったのではないかと疑いたくなるような内容の話だ。
半兵衛は其らを、興味深げに目を光らせて聞いていた。
「なるほど……其の桜が、噂の桜の木だったようだね」
それに、と。
半兵衛の鋭い目が、布団に寝かされている少年を捉える。
少年は、呑気にすうすうと健やかな寝息をたてて眠りこけていた。
体が幾分暖まったお陰か、幼子特有のふっくらした頬に赤みが指し始めている。
「此の子が関わっているのは、先ず間違いないだろう」
「半兵衛殿……っ」
「心配しなくても、直ぐに殺したりはしないよ」
思わず腰を浮かせた家康が喋り出す前に、半兵衛はきっぱりと言う。
彼の桜の木と関係があるならば、話を聞かねばなるまい。
とりあえず其れまでは殺さない、というだけだ。
家康は、心底安心したようにほうっと息を吐く。
だが次の半兵衛の言葉に、再び目を見開く羽目になった。
「じゃあ、二人とも。後は頼んだよ?」
「えっ?」
「半兵衛様。恐れながら、其れはどういう意味で……?」
珍しく、数分に渡って空気だった三成が、探るように半兵衛の顔を見返した。
最初のコメントを投稿しよう!