15/25
前へ
/26ページ
次へ
本当は、と半兵衛。 「何があるかわからないから、僕が見ていたいんだけど……まだ仕事が沢山あってね。手が離せないんだ」 苦笑まじりに言う半兵衛を見て、三成は先程見た彼の私室の様子を思い出した。 そういえば端の方に、書簡が山のように積み上げられていた気がする。 あれだけの仕事が残っているのならば、餓鬼の面倒など見ている場合ではなかろう。 それに、半兵衛が自分達に『頼む』と言ったのだ。 断れる筈があろうか。 「お引き受け、致します」 「ありがとう、三成君。……家康君は、どうするんだい?」 「ワシもやります!」 半兵衛が言い終わらぬ内に、大きな声で言った。 しっ、と唇の前で人差し指を立てた半兵衛に諌められる。 家康ははっと目を見張り、両手で口許を押さえて軽く頭を下げた。 馬鹿なのか、こいつは。 三成は小さく溜め息を吐いた。 「じゃあ二人共、後は宜しく頼むよ。部屋に居るから、何か有ったら呼んでくれ」 半兵衛はそう言い残し、部屋を後にした。 「さて、どうする三成?」 「何がだ」 声をかけてきた家康に、釣れない返事を返す三成。 頼まれたのは、この餓鬼を見張っていることだけだ。 他に何をしろと言うのだろうか。 「あ、そうだ。湯で手足を温めろと言っていたな。湯を貰ってくるから、待っててくれ」 家康はそう言うと、三成が返事をするのも待たずに部屋を飛び出していった。 廊下を走るばたばたという騒がしい音が、段々と遠ざかっていく。 「……馬鹿が」 家康が開け放って閉めないままの襖を見て、三成は忌々しげに舌を打った。 開いた襖から入ってくる廊下の冷気が、瞬く間に部屋の温度を奪っていく。 開けたら閉める、常識だろう。 まぁ、三成も人に常識を諭せる程常識に富んでいる訳ではないのだが。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

25人が本棚に入れています
本棚に追加