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本当は、と半兵衛。
「何があるかわからないから、僕が見ていたいんだけど……まだ仕事が沢山あってね。手が離せないんだ」
苦笑まじりに言う半兵衛を見て、三成は先程見た彼の私室の様子を思い出した。
そういえば端の方に、書簡が山のように積み上げられていた気がする。
あれだけの仕事が残っているのならば、餓鬼の面倒など見ている場合ではなかろう。
それに、半兵衛が自分達に『頼む』と言ったのだ。
断れる筈があろうか。
「お引き受け、致します」
「ありがとう、三成君。……家康君は、どうするんだい?」
「ワシもやります!」
半兵衛が言い終わらぬ内に、大きな声で言った。
しっ、と唇の前で人差し指を立てた半兵衛に諌められる。
家康ははっと目を見張り、両手で口許を押さえて軽く頭を下げた。
馬鹿なのか、こいつは。
三成は小さく溜め息を吐いた。
「じゃあ二人共、後は宜しく頼むよ。部屋に居るから、何か有ったら呼んでくれ」
半兵衛はそう言い残し、部屋を後にした。
「さて、どうする三成?」
「何がだ」
声をかけてきた家康に、釣れない返事を返す三成。
頼まれたのは、この餓鬼を見張っていることだけだ。
他に何をしろと言うのだろうか。
「あ、そうだ。湯で手足を温めろと言っていたな。湯を貰ってくるから、待っててくれ」
家康はそう言うと、三成が返事をするのも待たずに部屋を飛び出していった。
廊下を走るばたばたという騒がしい音が、段々と遠ざかっていく。
「……馬鹿が」
家康が開け放って閉めないままの襖を見て、三成は忌々しげに舌を打った。
開いた襖から入ってくる廊下の冷気が、瞬く間に部屋の温度を奪っていく。
開けたら閉める、常識だろう。
まぁ、三成も人に常識を諭せる程常識に富んでいる訳ではないのだが。
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