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三成の斜め後ろまで、音も無くやって来る吉継。
三成はゆっくりと、そちらを振り向いた。
「……私をからかいに来たのか、刑部」
「まさか」
吉継は、大袈裟に肩を竦めてみせる。
しかし包帯の隙間から覗く目は、にんまりと笑みの形をとっていた。
「凶王をからかおうなどという命知らずはおらぬ。われには到底無理よ。怖や怖や」
「ふん、よく言う」
人をからかう、というよりおちょくるのが好きなくせに、と。
三成は小さく溜め息を吐いた。
「それで、何用だ」
吉継には、三成の領地である佐和山の留守を頼んでいた筈だ。
それなのに、何故ここにいるのだろうか。
「いや何……ぬしの帰りが遅い故、様子を見に参ったまでよ」
「ああ……」
三成はぼんやりと返事をした。
そう言えば、今日は其れ程遅くならないうちに帰れる、と言って出てきた気がする。
ふと外を見やれば、すっかり夜も更けてしまっていた。
黒い夜の闇に、ぽっかりと丸い月が浮かんでいる。
「済まなかった」
「何、構わぬ。……其れより」
吉継の、色彩が反転した瞳が、少年を捉えた。
「この童は、如何した」
「拾った」
「…………左様か」
三成は短く答える。
吉継も、其れ以上の追求はしなかった。
下手に問答を繰り返して、三成の気に障るようなことを言ってしまったら困る。
長い付き合い故か、吉継はそういった所をよく心得ていた。
三成は吉継から視線を外し、再び少年に戻した。
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